思念界。そこはタノレパーとタノレパが暮らす安息の地。
駄菓子菓子……思念界には地図に載っていない孤島があった。
孤島の名はトット島。
一見穏やかに見えるこの無人島では……
シーズン毎に残酷なデスゲームが行われていた。
今季も参加者達を乗せた船がトット島に近づきつつあった……。
船の甲板で一人の男が海を眺めていた。
男の名前は富士代官ヒズキ。ウィキーンズのエリート学生である。
「今年もこの季節がやってきたか……」
彼は呟くと、懐からタバコを取り出した。そして火をつけようとしたその時。
「俺にも一本くれないか」
そこに大柄の男が立っていた。
彼はエソアス軍曹。ヲ千戦争で敵兵に恐れられた歴戦の兵士だ。
「ああ、構わないよ」
そう言うと、ヒズキはエソアスにタバコを渡した。
「ふぅーっ……」
タバコを口にくわえると、エソアスは大きく息を吸い込み、煙を思い切り吐き出した。
「ありがとう」
エソアスはヒズキに向かって礼を言うと、再び口元へ運んだ。
ヒズキはそんな彼の姿を見ていた。すると、エソアスは口を開いた。
「お前はヒズキだな?デスゲームを何度も制しているという。噂によると、その頭脳でデスゲームの攻略法を見つけているとか」
「ああ、そうだね」
「どうすればそこまで頭が冴えるんだ?」
「運だよ。俺はただ運が良いだけさ」
「本当にそれだけなのか?」
「ああ、本当だとも」
「…………」
ヒズキの言葉を聞いたエソアスは黙り込んだ。しばらく沈黙が続いた後、「そろそろ時間かな」ヒズキは腕時計を見た。
時刻は既に午後4時を指していた。「じゃあ、また会おう」そう言ってヒズキは船室へと戻っていった。
船内食堂にも多くの参加者が集まっていた。参加者の多くは初参戦であり……
デスゲームとは知らずに参加させられている者もいた。
「あの人誰だろう?」
「さぁ……」
食堂にいる人々は一人で黙々と食べ続ける美女を見てひそひそと話し始めた。
彼女の名はルイザ。身なりからして令嬢のように見える、近付き難い女性だった。
一方その頃、食堂の外では複数の男女が揉めていた。
トラブルメーカーの砂塵嵐と礼奈が屁理屈コネリン砲でルイ・チャンを口撃していた。ルイ・チャンを庇うように一人の男が立ち塞がっていた。彼の名はユノン。ある意味で……参加者の中で一番まともな人間かもしれない。
「二人共やめろよ!」
ユノンが叫ぶと二人は黙った。しかし。
「どけよユノン!ルイ・チャンは僕の使い魔だ。僕しか消せない!」
「邪魔なんだけどー」
二人の殺意に満ちた眼差しがユノンに向けられる。ユノンは怯えることなく、二人に向かって言った。
「君達は間違っている。ルイ・チャンは確かに君の使い魔だ。でも、使い魔にだって命はある……消すなんて俺が許さない!」
「うるさいなー。ユノン、お前……最後には裏切られてルイ・チャンに浄化させられますよ?」
「そうだよ。それに砂塵嵐がデスゲームを制覇するんだもん!どうせ……あんた達は全員いなくなるんだから邪魔しないでよね」
砂塵嵐が懐から辞書を取り出した。
「この辞典には論理的に解決する方法が書かれているんだよ。例えば、人を騙す、とか……」
「それって、どういう意味だ?」
ユノンは尋ねた。すると、砂塵嵐は口元を歪ませながら答えた。
「それはな……」
「いい加減にしてください。皆さん落ち着いて下さい。ゲームマスターにバレたら脱落させられますよ」
そこに、ヒズキが現れた。彼は三人の争いを止めるためにやって来たのだ。ヒズキの呼びかけにより、船は再び静まり返った。
「……」
「……」
「……」
砂塵嵐、礼奈、そしてユノンまでもが黙り込んだ。
「喧嘩はダメですよ」
ヒズキの言葉を聞き、砂塵嵐は呟いた。
「何で僕達が怒られないといけないんだ?悪いのはルイ・チャンとユノンじゃないか」
砂塵嵐はそう言うと、食堂の中に入っていった。すると、
「ちょっと待ってぇ!」
ルイ・チャンはその後を追った。ヒズキはため息をつくと、再び船室へと戻っていった。
一人取り残されたユノンは「……ルイ・チャン」と言って俯いた。
ユノンが歩き出すと、後ろから足音が聞こえてきた。
「……あの」
「え?」
「ユノンが振り返るとそこには一人の女性がいた。
「君は誰だい?」
「私はローニャ。どうしてこの船にいるかわからないの」
「そう……なんだ。俺はユノンだ」
ユノンが自己紹介を終えると二人は沈黙した。しかしすぐにユノンが話し始めた。
「……あぁ……えっと……その……」
駄菓子菓子、ユノンは何かを言いかけた後、口を閉ざしてしまった。
「どうしましたか?」
ローニャが尋ねると、ユノンは何も言わずに首を横に振った。
「いえ、何でもありません。それより、今からデスゲームが始まるんだけどローニャみたいな女性まで参加させるなんて狂ってるよ」
「私、怖いです。浄化されるかもしれないと思うと……怖くて仕方がないのです。でも、大丈夫です!ユノンさんと一緒にいればきっと生き残れます!」
「頼りにしてくれていいよ」
ユノンが笑顔で言うと、ローニャは安心して胸を撫で下ろした。
「ありがとうございますユノンさん」
一方その頃……。
「おい!お前達、一体何をしているんだ!?」
食堂では、エソアス軍曹が怒鳴っていた。
「いやー、ちょっとね」
礼奈が答えると、エソアス軍曹は再び叫んだ。
「何が『ちょっと』なんだ?ナイフなんか持ち込んでどういうつもりだ説明しろ!」
すると、礼奈が口を開いた。
「武器を持ち込んだんじゃないよ。砂塵嵐君がどうしてもカレーを食べたいって言ったから、作るために持ってきたんだよ。ほら、カレーライス美味しいじゃん。だから、みんなで食べようと思って」
礼奈の言葉を聞き、エソアス軍曹は「そうなのか?じゃあ、食べるぞ……」と言った。
礼奈は「うん」と言って笑みを浮かべた。そして皆に料理を配り始めた。
「うわっ、めっちゃうまそうじゃん」
砂塵嵐はそう言うと、スプーンを手に取りカレーを口に運んだ。すると、突然砂塵嵐は吐血をした。
「ゴホッ……グフッ……なんじゃこりゃ……」
砂塵嵐は倒れたまま動かなくなった。
その様子を見て慌てふためく礼奈を尻目に部論奈が近付き、気絶した砂塵嵐の口に錠剤を放り込んだ。
「ん……あれ?」
砂塵嵐はすぐに目を覚ました。
「大丈夫?」
礼奈が心配そうな表情で砂塵嵐を見つめた。
「ああ、大丈夫さ!踊りたくなってきたな〜あ。ところでさっきから僕の事をじっと見つめているけどどうかしたのかい?」
砂塵嵐が尋ねると、礼奈は慌てて顔を逸らしながら答えた。
「べ、別に何でもないんだから!心配とかしてないんだからね?」
「シューーート!」
「ふごっ」
突然砂塵嵐の顔面にサッカーボールが直撃した。
「いててて……なんだい君は?」砂塵嵐が尋ねると、斧だけさんが近づいてきた。
「俺の名前は斧だけさんだ。お前は翼を折られし悪魔だな?」
「まぁ、そうだが」
砂塵嵐が適当に答えると、斧だけさんは砂塵嵐に詰め寄った。
「なぜここにいるんだ!この世界は俺のものだ。俺はこの世界を支配できる力を手に入れた。その邪魔をするなら容赦しないぞ!」
斧だけさんが怒鳴ると、砂塵嵐は踊りながら言った。
「へぇー、君もデスゲームに参加していたのか。僕はね、君と同じで人生を変えに来たんだよ」
砂塵嵐がそう言い終わると同時に、ルイ・チャンが口を開いた。
「ちょっと、何やってるのですか!」
砂塵嵐はルイ・ちゃんの声を聞くと、舌打ちをして斧だけさんから離れた。
「なんだい?使い魔の分際で僕達の会話に割り込んでくるなんて失礼じゃないか」
砂塵嵐が不満げな態度で言うと、ルイ・チャンは砂塵嵐に指を指して叫んだ。
「そいつは危険な奴なんですよ!頭がイカれてる」
ルイ・チャンがそう言うと、砂塵嵐はルイ・チャンを睨みつけて言った。
「危険だと……それは君の方だろう?」
砂塵嵐がそう言ってルイ・チャンを辞書で殴りつけると、ルイ・チャンは倒れてしまった。気を失ったようだ。
周囲の冷ややかな視線を気にもせず砂塵嵐と礼奈は食堂を後にした。
すると、エソアス軍曹が礼奈に声をかけた。
「おい!待ってくれ」
礼奈は立ち止まると振り返って言った。
「何か用?」
礼奈の言葉を聞き、エソアス軍曹はため息をつくと口を開いた。
「……カレー美味かったよ」
「ありがと。あんた優しいじゃん」
その時、船内にアナウンスが鳴り響いた。
『これよりゲームを開始します』
礼奈は慌てて周囲を見渡すと、近くに居た部論奈を捕まえて尋ねた。
「なっ……どういう事!?」
「どうやら、始まったみたいだね」
部論奈が落ち着いた様子で答える。
ずっと漫画を描き続けていたダザイナー・キヨダのペンも止まる。
「ふぅ、やっとか。待ちくたびれたぜ」
「一体、何が始まるんですか……」
「さぁ、わからない」
「なんでこんな事になったんだろ」
「まだトット島に着いていない的」
「暇潰しのためにデスゲームとか馬鹿じゃないの?」
参加者が口々に呟き始めると、砂塵嵐が叫んだ。
「うるさいなー、君達は黙っていろ!」
「何だと、この野郎!」
「そうだ、そうだ!」
「まあまあ、落ち着いてください」
ヒズキがそう言うと、皆が静まり返った。
再びアナウンスが流れる。
『この船はあと5分で爆発するよ。ゲームに参加したくない人は残ればいいんじゃないかなあ?でも……全員浄化されちゃうけどねぇ!』
そう言い終わると同時に船が大きく揺れ始めた。
「爆発だってー?」
「嘘でしょ?」
「冗談じゃねえぜええええ」
皆が一斉に走り出した。だが船外へと続くドアはロックされていた。
「クソッ!どうすればいいんだ」
「オレに任せたまえ」
そこに現れた人物を見て、皆が一斉にその場を離れる。
彼の名は渋井千ュ〜。女好きで知られる思念界の嫌われ者だ。渋井千ュ〜はドアの前に立つと、ポケットから手榴弾を取り出した。そして、彼はピンを抜いてドアに投げつけた。
爆発音と共に扉が吹き飛ぶと、そこには人が通れるくらいの穴が出来ていた。
「俺はね、生まれ変わったんだ。デスゲームなんて馬鹿げた遊びは今シーズンで終わりにして、女の子を救いたいんだ」
そう言いながら、渋井千ュ〜は穴を通って外に出た。
「俺達も行きましょう」
ユノンが不安げに言うと、エソアス軍曹が口を開いた。
「ああ、行こう」
二人は穴を通り抜け、トット島に上陸した。
その後も次々と穴から参加者が飛び出してくる。すると、誰かが言った。
「おい、あれは何だ!?」
皆の視線の先には、奇妙な形をした建造物があった。それはまるで巨大な十字架のような形をしていた。
「あれが舞台か」
エソアス軍曹が呟くと、アナウンスが鳴り響く。
『フハハッ……ようこそ、僕の楽園へ!』
「あの建物は何なんだ?」
『フハハッ……』
「聞いているのか!?」
『建物が見えるかい?あれがゴール地点だよ。十字架まで辿り着いた者だけが莫大な富を得られるのさ。でもまずは……ルール違反者を成敗しないとだけど!』
辺りが静寂に包まれると、十字架からUNCOが飛んできた。物体は渋井千ュ〜に命中すると、彼は膝から崩れ落ちた
「ぐっ……」
「しぶっちぃ!大丈夫か?」
ユノンが尋ねると、渋井千ュ〜が答えた。
「ポポポポ?ポポポ……ポポポポポポポ!」
「うわぁあああ!こいつ、浄化されている!」
ユノンは思わず叫んだ。
「落ち着け!」
エソアス軍曹が叫ぶと、皆が一斉に振り返った。
「ルールを破ったのはこいつだけだ。ひとまず……俺たちが浄化される心配はない」
「そ、そうよね。良かったあ〜」礼奈はホッとした様子で胸を撫で下ろした。
「それにしても彼のルール違反がなければ俺たちは船から出られなかったんだよな」
ヒズキが言うと、ユノンが答える。
「ま、結果オーライってやつだな」
「いや、そういうわけにもいかないだろう。渋井千ュ〜は俺達のために失格になったんだ」
「敵が一人減って大喜びなんだがな〜あ。がっはっはっはっは」
豪快な笑い声を響かせながら、トゥムパが言った。彼は勝利のためならどんな手段も厭わない性格の持ち主だった。
ヒズキ達は十字架を目指すため、島の中心に向かって歩き始めた。途中、何人かの参加者が揉め事を起こしたが脱落者は出なかった。
しかし、彼らもまた何かしらの目的を持ってこの島を訪れたのだ。そしてその目的とは、優勝賞金1000万ドノレを獲得する事であった。
参加者の前に巨大な壁が姿を現す。壁には扉があり、そこを開くと中に入れた。そして……アナウンスが再び響き渡る。
『巨大迷宮へよ〜こそ!!まずは小手調べだよ。10分以内に迷宮を脱出してくれ。10分経過すると……UNCOが放出されるよ』
「トット島定番のステージだな。複雑ではないが迷宮には罠が仕掛けられている」
ヒズキが呟くと、ユノンが口を開いた。
「誰が先頭を行くんだ?罠があるなら……先頭を行く奴が不利になる」
「俺が行こう。俺はタフだからな。この程度の迷宮はすぐにクリア出来るさ」
エソアス軍曹が自信ありげに言うと、彼は前に出た。
彼に続いて名乗り出たのはヒズキだった。
「経験者である俺が二番手を行こう。このステージは後方にいるほど危険が少くなっている」
その言葉を聞いたトゥムパはニヤリと笑みを浮かべると、こう言った。
「おい、ちょっと待て。なら体力のない者が後ろに回るべきじゃないのか?私は歳でね、悪いが……私は後方に回らせてもらうぞ。先頭の諸君に敬意を表そう。頑張ってくれ!」
「任せてくれ。後ろの連中に迷惑はかけない」
エソアスを先頭にしばらく進むと……突然地面が割れた。落とし穴だ。
だが、彼は見事に回避した。その後も順調に進んでいったが……。
「ん?」エソアスはふとある事に気付く。
「どうしたんですか、軍曹さん」
三番手にいたユノンが尋ねると、彼は答えた。
「妙に……静かじゃないか。罠の気配がない。まるでもうすぐゴールという感じだ」
「確かに……言われてみると」ヒズキがそう言うと、礼奈が言った。
「でも、油断しない方がいいと思うわ。こういう時こそ誰かが引っかかるかもしれないし」
「フラグってやつか?」
「そうだぜええええ。軍曹、慎重に進め。何があってもおかしくはないぜええええ」
黒狼は言った。
「ラジャー」
それから数分後……突如前方に台のようなものが迫り上がってきた。
「これは銃座だ!前回は後半のステージにあった仕掛けだが…遠隔操作されている可能性が高い。みんな射線に立つな!!」
「上等だ。ぶっ壊してやる!」
エソアスが駆け出した。
しかし、その瞬間……天井が崩れ落ちてきた。
「なにいいいい?」
「軍曹!」
ヒズキが叫ぶ。ヒズキは咄嵯の判断で、前方へ転がり軍曹と共に瓦礫を回避した。駄菓子菓子……通路は塞がれヒズキとエソアスは孤立してしまった。
「そんな馬鹿な。まずい事になった」
ユノンが呟くと、礼奈が言った。
「ユノン、あんたが先頭よ」
「え?あ、うん」
ユノンがしどろもどろな返事をする。ユノンは先頭に立ち、ゆっくりと歩き始めた。
弱々しい彼を見かねたのか、一人の美少女が彼の背中を叩いた。
彼女の名はトホホフォー。若く見えるが200歳のエノレフで、強力な魔法使いだ。
彼女はユノンに話しかけた。
「ユノン、あなたが先頭を歩くなんて無謀よ」
「すまない。俺はいつも人の後ろにばかりいて……前に出る勇気がなくて」
「そういう意味じゃないの。アンタ一般人でしょ?私が先頭を行くわ。とりあえず……戻るわよ」
「え?ああ」
トホホフォーを先頭に、参加者は来た道を戻っていった。
「トホホフォー、こっちはさっき通った道だぜええええ?」
黒狼が言うと、トホホフォーは振り返らずに言った。
「いいから黙ってついてきて」
「なんなのよあいつ」と、ほっぺを膨らませた礼奈が言った。
「あの人達は我々とは違う何かを感じているのかもしれない。例えばエノレフの子は壁を透視できるとか」
イワナ・マーヤがそう言うと、ユノンが尋ねた。
「あなたは?」
「僕はイワナ・マーヤ。ただの市民さ」
ユノン達は再び歩き始める。すると、礼奈が言った。
「ねえ砂塵嵐。デスゲームの主催者って一体誰なの?」
小説家でもある砂塵嵐は顎に手を当て答えた。
「分からない。だが、少なくとも普通の人間ではない事は確かだ。この世界では人間は死なない。だから主催者はUNCOを使ったんだよね。所持・生産が禁止されているUNCOを使ってまでこのゲームを開催した理由は何だろう?」
「私達に恨みを持った者の犯行?」
礼奈が言うと、黒狼が言った。
「だとしたら、理不尽なゲームが続きそうだぜええええ」
「かもしれないね」
砂塵嵐が答えると、トホホフォーは立ち止まり周囲を警戒した。出口を見つけたからだ。
「出口は近いぞ!」
カソダ首相、トノーレドゥはそう言って走り出した。しかし……
「あ……」
彼は足を滑らせ、転んでしまった。
「トノーレドゥ大丈夫的?手を貸す的」
ヘソ・ライト博士が手を差し伸べる。
「ありがとう」
その時だった。背後から悲鳴が聞こえたのだ。
「きゃああああああ!!」
最後尾にいたローニャが叫ぶと、釣られてルイ・チャンも叫んだ。
後方からUNCOが迫ってきていた。
「まさか……時間切れ!?」
「嘘でしょ?いくらなんでも早すぎるわよ!」
トホホフォーが叫ぶと、黒狼が言った。
「逃げろおお!!浄化されるぜええええ」
参加者達が一斉に出口へと走り出す中、イワナ・マーヤだけは冷静に分析していた。
「まだ10分も経過していないはずだ。とすれば……UNCOは偽物でゴールこそ罠ではなかろうか?」
彼は違和感を覚え、UNCOに自ら向かっていった。次の瞬間……。
「ポポポポ?ポポポポポポポ!ポポポ!」
イワナ・マーヤは浄化されてしまった。参加者が出口を発見すると同時に放たれる演出用のUNCOだったのだが……イワナ・マーヤは深読みし過ぎてしまったようだ。
彼が二人目の脱落者となってしまった。
迷宮を脱出したユノン達は村に到着していた。
村には宿泊所や食事処などがあった。駄菓子菓子、参加者以外に人の姿はなかった。
再びアナウンスが響き渡る。
『迷宮を突破した諸君、おめでとう。次のステージに備えて英気を養うがいいさ」』
「待って的!エソアスとヒズキはどうなったんだ的!」
『ああ、彼らはまだ脱落していないよ。それに……次のステージで重要な役割が与えられるんだ』
砂塵嵐はふと思った事を主催者に質問してみた。
「あのさ、ゲームマスターさん。何が目的なのかな?」
『目的?そんなの楽しいからに決まってるじゃん。それだけだ』
「それはつまり、主催者にとってこのゲームは遊びなんだね。そう、これは暇潰しでしかないんだよ。主催者にとっては……ね」
砂塵嵐が言うと、トノーレドゥが言った。
「なんでもいい。大金が手に入るなら君たちを犠牲にしてでも私は生き残りたい」
「僕も的。お金があれば研究費が潤沢になる的。だから僕は最後まで生き残るつもり的。ごめん的……トットフォー、新婚旅行がこんな事になって的」
ヘソ・ライト博士が呟くと、礼奈が叫んだ。
「私だって浄化されたくないわ。こんな訳の分からないデスゲームなんて早く終わらせてやる!」
ユノン達はそれぞれ部屋で休息をとる事にした。すると……突然ドアが開いた。ルイ・チャンだ。彼女は部屋に入ってくるなり言った。
「ユノン、ちょっといいかな?」
「どうした?」
ユノンが尋ねると、ルイ・チャンは顔を赤らめて言った。
「船での事ごめんなさい。何度も庇ってくれて嬉しかったけど恥ずかしくて……」
ユノンは優しく微笑んで答えた。
「気にしなくていいさ。俺はただ当たり前の事をしただけだ」
ユノンが言うと、ルイ・チャンは少し照れ臭そうな表情を浮かべて言った。
「ユノンって優しいのね。ユノンと一緒だと心が安まる。ねえ、これから一緒に行動しない?」
ユノンは彼女の申し出を受け入れた。そして、二人は行動を共にする事にした。だが……その時だった。
部屋の外から悲鳴が聞こえてきたのだ。二人は急いで廊下に出た。するとそこには浄化されたトゥイーホットの姿があった。傍には夫であるヘソ・ライト博士もいた。彼の目に涙が浮かんでいた。
「フォー、どうしてこんな事に的……」
蹲るヘソ・ライト博士の背後からゾンビの姿をしたUNCOが近づいて来ていた。
「ヘソさん!逃げろ!!」